先日訪れた鳴子温泉の一番山側、
もう少し行けば秋田という場所に位置する鬼首(おにこうべ)。
そこにある荒雄川神社の例大祭へ、さとのわを主宰している
鈴木美樹さんが案内して下さった。
辺り一面杉林。
普段はさぞかしシンと静かな場所だろうと想像しつつ、
鳥居のある神社へと続く急な坂道の入り口に着くと、
賑やかな笛や太鼓の音が聞こえて来た。
その音に誘われるように、息を切らしながら慌てて
最後の階段を登り切ると、神楽がすでに始まっていた。
藤原氏の時代から伝わるというその神楽は、
鬼首に暮らす町の人たちによって受け継がれている。
決してきらびやかでも荘厳なものでもないのだけれど、
なぜか惹きつけられた。
それは舞の素晴らしさや衣装にということよりも、
お祭り全体を包む親密でのんびりとした
あたたかい空気のようなものに対してだったように思う。
演者やお囃子の人たちをはじめ、小さな境内に集まる人たちの
ほとんどが地元の方々。
ビールや焼き鳥、玉こんにゃくやたこ焼きなどを
出店で販売している方々も。
出店のおかあさんに
「どこから来たの?」と聞かれたので
「東京です」と答えると、
缶ビール1本を買っただけだというのに
お漬け物やら、おこわやら
ビールの5倍くらいのおつまみをたくさん。
地元のお母さん方が作ったおつまみのお裾分けは
どれもこれもホッとする美味しさだった。
そして、お祭りは昼間に行われたこの神楽だけではなく…
18時頃から心鼓会の、山に響き渡る力強い太鼓の音を合図に
住民による演芸会のはじまりはじまり。
司会も地元の方だし、出演者も地元の子供たちからご年配の方々まで。
決して強制ではなく、町の地区ごとに出演したい人たちが演じたいものを
自分たちで考えて、衣装から振り付けまであれこれ工夫をして
きっとこの日のためにずいぶんと練習をしたのでしょう。
始まりは雨が降っていたにも関わらず、境内は多くの人が集まって
出ている人も見ている人も
みんな本当に心から楽しそうにしていた。
その光景があまりにもあたたかくてすっかり感動してしまった。
昼間の神楽に加えて、お祭りで行われるこの演芸会も
この地域では大事な行事のひとつ。
どこどこのだれだれ。
そのことをみんなが知っている。
ひょっとしたら煩わしさを感じることも
あるのかもしれない。
けれどもこれから始まる長く厳しい冬の期間や
稲刈りなどの農作業の前にアハハと笑って「娯楽」を共有して
「さて明日からまた頑張るか」とか
何かあったときには
「お互いさま」と助け合うことのできる
人のつながりが自然と強く結ばれているようです。
それはどこか湯治文化とも似ていて、
鈴木美樹さんのご案内のお陰で
この土地ならではの魅力を知ることができました。
といってもまだまだほんの一部だけれども。
周辺の町でも昔は同じようにお祭りで
地域住民の演芸会などが行われていたことも
あったようだけれど、今でも変わらず続いているのは
この荒雄川神社の例大祭のみとなっているそう。